苦しみの最中にある人は、ただひたすらその苦しみから逃れたいと思うものです。
それは本能的な逃避欲求からくるものであると思われます。
その欲求が、「悟りたい」「治りたい」「救われたい」という
気持ちになって現れてきます。
しかし、苦しんでいる人は、悟りたいと思えば思うほど苦しみが増えてきて、やがて身動きできないところに追い詰められていくことにな ります。
にっちもさっちもいかなくなって、もう死ぬしかないという
ところまで行き着いた時、死ぬに死ねない自分であることを思い知らされ、自分の社会的な破滅や死を覚悟の上、このままで生きていくしかな いと思うようになるものです。
そうなって初めて「悟る」ことも「治る」ことも「救われる」ことも自分とは関係のないことと知ることになります。
そうなった時、「悟りたい」「治りたい」「救われたい」という気持はもはやありません。
悟る必要がなくなって、「悟りたい」という気持がなくなったのです。
今の自分以外に「悟り」などという特別な境地があるというのは間違 いであると思うようになります。
しかたなく、苦痛のまま、「苦痛の世界」に住むことになります。
すると、「苦痛の世界」の住民となったことで、苦痛の感覚に慣れてきます。
慣れるに従って、苦痛をあまり苦と感じなくなります。
苦痛に限らず、すべての感情は、そのままにしておけば、慣れるに従って鈍くなり感じなくなるという性質のものなのです。
この結果、私たちは「苦痛の世界」に住むことで真の「安楽な世界」の住民になれることを知ることになります。
人前で緊張する。
不安は苦しい。
どうでもいいことにいつまでもこだわってしまう。
これらは人の心の自然現象であって、どうすることもできないし、自分の思いどおりになりません。
不安や苦痛の重みに耐えかねて、この苦痛から逃れようと右往左往すると、心の事実として、ますます不安感や苦痛にとらわれます。
このことを理論としてでなく、体験上の事実として自覚することが大切です。
気分がイライラするのならイライラするに任せ、顔が赤くなるなら赤くなるに任せ、なすべきことをしていくことです。
何事をなすにもこの態度、コツを会得することが大切です。目の見えない人が、目の見える人と対抗する必要はなく、気の小さい人が、気の強い人と競う必要はありません。
ただ、自分の持ち前を発揮すれば充分です。
世の中の青年のように、大胆で快活になろうとしなくてよいのです。
思想や考えで事実(大胆であること)を作ろうとしても無理なことです。
自分は気が小さく、恥ずかしがり屋であると自覚し、なす
べきをなしていけばよいのです。
これが虚偽の生活より真実の人生への転換となるのです。真実の人生を歩むことで、周囲の人は皆、今まで隠していた自分の気の小さいことや弱くて恥ずかしがりやであることをを見抜き、ありのままの劣等な自分が、人々の心に刻まれることになります。
自分は気が小さく、臆病な人間であると真の自己を自覚することです。
そこにはもう、少しの見せ掛けや虚偽はありません。
しかし、いくら臆病な人間であっても、社会人として必要なことはびくびくしながらでも逃げずに行動していかなければなりません。
この逃げないで、びくびくした行動の繰り返すなかで、周囲の人は、あなたを「一人前」と認めてくれることでしょう。
悩みを超越し、真の自己を自覚することで、ありのままの事実、ありのままの自分が最高のものであると気づきます。
あまりにも自分のことが気になるとき、自分をとりまく自然や宇宙のことを考えてみてください。
世の中や自分の周りで起きること及び自分の心の中の悩みごとは、すべてただの現象であって、そのままにしておけば(苦痛を取り除こうとしないで、自然に任せれば)必然的に調和の方向に向かうものです。
世の中の苦悩や不安は、一切自然(神、如来)に任せきることです。
自然(神、如来)に任せきることで心の重みは軽くなります。
自然(神、如来)こそが信じるべきものです。
最後に、悟りについて若干触れておきます。
いろいろな考えがあろうかと思いますが、そのひとつは、気づくことです。
本当の自分に気づくことです。
気づいても気づかなくても、本当の自分は変わらないということに気づくことです。
自分について悩んでいる方は、今の自分が、本来の自分の姿であると納得できず、納得できる自分を追い求めていることかと思います。
今の自分以外に、もっと良い自分があると思って探し続けることになります。
この態度はちょうど「大河の中にいながら水を探している」ようなものです。
この間違いに気づくことは、簡単なようで、実際は非常に難しいことす。
通常長い年月を要した後、気づくことが多く、残念ながら、一生気づかない方も多くいらっしゃいます。
苦労して、もっと良い自分を追い求め、その結果どうにもならなくなって、完全にゆきづまり、求めるものが得られないことを体験的に自覚した時、やむを得ず、もっと良い自分を追い求める努力を止めることになります。
その時、はじめて今まで嫌っていた、ありのままの、本来の自分が最高のものであると気ずくことになります。
何事も苦労しなければ、本当のものを見つけることはできないのです。
本当のものは何かというと、以前からあった、ありのままの、本来の自分です。

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